「駅前留学」という名のベンチャービジネス
英語を始めて45年超、幾多の海外出張や翻訳本の出版を経て、
まことに恥ずかしい話だが、
『「英会話は中学の教科書を完全にマスターすれば十分である」という伝承が正しい』
ということがようやくにして解り始めた。
「人間の頭脳には容量があり、新しいことを詰め込んだら、詰め込んだ分だけ直ぐに出て行く」、
言葉を変えれば、「人間とは忘れ去る能力を持った動物」である。
これを英語および英会話に当てはめてみると、
『根幹の基本』が習得できていないのに、新しい言い方や単語に数多く当たっても、
新たな事象を覚え込もうとした時点で、前に覚えた単語や言い回しを忘れ去ることになる。
そうした根幹のメカニズムを理解しないまま、
英会話という、グローバルな時代にマッチした“習い事”が日本では盛んである。
また語学留学という名目の、短期海外旅行も盛んである。
ただ「STAY=長期滞在=本格留学」と「VISIT=短期訪問」の違いが理解できれば、
この語学留学という便法がいかに馬鹿馬鹿しいものかがわかるはずだが...。
こうした語学留学ブームを背景に、
「駅前留学+NOVAうさぎ」をキャッチフレーズに急成長した英会話学校最大手のNOVAに対し
経済産業省は、6月13日、特定商取引法違反を重ねていたとして、
一部業務について業務停止命令を出すに至った。
NOVAを巡っては、途中解約に応じていない点について、
日本各地で受講料返還訴訟が起こされている。
国民生活センターによると、外国語・会話教室に関する相談件数は06年までの6年間で約19,000件。
そのうちNOVAに関するものが5,200件となっている。
経済産業省の調査によると、
06年の市場規模は前年度比0.8%減の1,261億円で3年連続のマイナス。
外国語学校市場は03年度の1,296億円をピークに減少が続いている。
ただ一方で、受講者数は増加。06年度は5.4%増の937万人で、03年度比14.8%増。
受講者が増えているのに市場が縮小している原因は料金競争の激化にある。
各社は幼児や高齢者を顧客として取り込みつつあるが、
自己投資を惜しまない十代後半から二十代の主力顧客層が少子化で目減りし、
NOVAを筆頭に激しい料金競争が展開されている。
全国に900以上の拠点を置き、41万人以上の受講者を抱えるNOVAは、
受講者にあらかじめ「ポイント」と呼ばれる受講権利を購入させ、
その権利に数量割引を適用、大量購入すれば1回のレッスン料が2千円以下になると説明、
受講者を集めてきた。
05年度の外国語学校市場でのNOVAの売上高シェアは47.0%。
2位のイーオン(岡山市)の12.6%、三位のジオス(東京・品川)の9.6%を大きく引き離している。
人間の頭脳システムを理解した上で、(基本のできていない)受講者に、
永遠に英会話という“習い事”を続けさせようとしたNOVAの猿橋望社長は、
確かにベンチャー事業の成功者には違いなかった。
しかし介護事業のコムスンと同様、根幹の“何か”を無視した戦略なき拡大路線は、
時と同じくして暗礁に乗り上げることになった。
ベンチャーという拝金主義の思想と、社会に貢献するという高大な思想の微妙な境界は、
簡単に交わることはないようである。
